饒速日尊(ニギハヤヒ) 消された日本の大王
饒速日尊(ニギハヤヒ)とは
饒速日尊(ニギハヤヒ)は、神武天皇以前に日本を統治していた大王です。
本当の❝ハツクニシラススメラミコト❞と言っていいでしょう。
記紀では、少し触れられていますが、大人物、日本を統治していた人物にならないように、巧妙に消されています。
ニギハヤヒが書記以前の歴代天皇に崇拝されていたことが残っています。
それ故、消された元祖日本の大王なのです。
『古事記』でのニギハヤヒ
邇藝速日命
『日本書紀』でのニギハヤヒ
饒速日命
『先代旧事本紀』でのニギハヤヒ
饒速日命、天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊、天火明命、天照國照彦天火明尊、胆杵磯丹杵穂命
他に、天照御魂神、天照皇御魂大神、櫛玉命、櫛玉神饒速日命
記紀がシンプルなのに対して、『先代旧事本紀』はたくさんの名前があることがわかります。
この差は何かいわくがありそうです。
『先代旧事本紀』をみると謎が解けそうです。
『日本書紀』編者も、「表立っていえないけどニギハヤヒは皇祖神」ということを隠していません。
神武東征で長髄彦との戦いのときに、長髄彦が神武天皇に向かって「昔、天子の御子が、天の磐船に乗って天降られました。櫛玉饒速日命です。・・・・一体天神の子は二人おられるのでしょうか・・・」というやり取りがあります。神武東征と長髄彦の戦いの記事はこちら
長髄彦は、本当に天子の子ならば証拠の品があるだろうと言って「饒速日命の天の羽々矢(ははや)と歩靫(かちゆき)を天皇に示した」ともあります。
当時の大和政権の支配者はニギハヤヒであることを匂わせる記述です。
ただし、記紀での尊称は「命」です。更に高貴な「尊」ではありません。
1ランク低い尊称を使っています。
さて、そんな謎の多い饒速日尊(ニギハヤヒ)について、神社伝承を調べてみました。
磐船神社
■磐船神社(いわふねじんじゃ)
大阪府交野市私市にある磐船神社は、饒速日命をお祀りする神社です。
磐座をご神体とする縄文系の神社形態をとっています。
古来、河内国河上哮ヶ峯と呼ばれ、天の磐船を御神体とする饒速日命降臨の聖地といわれています。
伝承では、十種瑞宝鎮魂は日本の祈祷の根本であり、饒速日尊が天照大神より授かり伝えたものとあります。
『先代旧事本紀』によると、「櫛玉饒速日尊、天神御祖(須佐之男尊)の詔を稟けて、天の磐船に乗って、而して天降り、河内国川上哮峰に坐す。則ち遷りて大倭国鳥見白庭山に坐す。便ち長髄彦の妹三炊屋姫を娶り。宇摩志麻治尊を誕生す」
河内国川上哮峰は、当時縄文海進で海が奥地まで到達した後の弥生海退の途中で湖か湿原となっていたと見られ、船でここ磐船神社のある地域まで入ることができたようです。
ここでスサノオと長髄彦との交渉で長髄彦の妹を娶るということで交渉がまとまり、磐船街道を通って大和に入ったものとみられます。
石上神宮と布留御魂
石上神宮(いそのかみじんぐう)は、布都御魂=韴霊、布留御魂=十種神宝、布都斯魂=十握剣(天羽々斬剣)という剣を祀ります。
崇神天皇の御代に創建されたと伝わる日本最古級の神社です。
もちろん剣を祀っているだけでなく、その御人物もお祀りしています。
古典には「石上神宮」「石上振神宮」「石上坐布都御魂神社」等と記され、この他「石上社」「布留社」とも呼ばれていました。
十種祓詞「ふるへふるへゆらゆらとふるへ」とあり、布留御魂大神が石上神宮の祭神であることを示唆しています。
ニギハヤヒの天璽瑞寶十種、いわゆる十種神宝は記紀にも登場します。
布留御魂がニギハヤヒであり、石上神宮がニギハヤヒを主祭神とすることは、この地が布留という地名であることからも分かります。
布都御魂がスサノオの父親、布都斯魂がスサノオをカモフラージュしていることになります。
また、配祀神の「宇摩志麻治命はニギハヤヒの御子」と由緒書に記載されています。
宇摩志麻治命がニギハヤヒの御子であることが判明しました。
このように、本来、人であるはずの御祭神を剣にカモフラージュするなど、ニギハヤヒの存在をできるだけ消したい記紀編纂当時の政権の意向が、表れているのではないでしょうか。
籠神社
籠神社(このじんじゃ)は、元伊勢といわれ、現在の伊勢神宮が鎮座する移転前の伊勢皇大神宮の一つといわれています。
『日本書紀』によると、崇神天皇の御代に、天皇の御殿に祀られていては、天照大神、倭大国魂の二神が祟るということで、外に祀られました。
豊鋤入姫命に託し、大和の笠縫邑に「神籬」を造り祀られました。
一方の倭大国魂である大物主大神は、太田田根子を祭主として大神神社に祀られました。
大物主大神すなわちニギハヤヒを大神神社に祀ったということです。
天照大神はその後、垂仁天皇の御代に、倭姫命がより良い場所を求めて宇陀、近江、美濃を巡り、現在の伊勢の地に至ったのです。
この間、各地で天照大神を祀っていた神社を「元伊勢」と呼んでいます。
なぜ天照大神は各地を移動することになったのか?
天照大神が大和を離れ各地を流転することになったのは、なぜなのでしょうか。
記紀では日本の太陽神であり皇祖神である最高神のアマテラスが、祟るからという理由で大和から締め出されたのは、何か変です。
一方のニギハヤヒは、大神神社と石上神宮という、大和で一番由緒正しき神社に祀られています。
ニギハヤヒは物部氏の先祖ですので、崇神、垂仁朝では最高権力を持つ氏族の氏神でした。
天照大神は九州を統率しましたが、大和では残念ながら権威も知名度もありませんでした。
時代が経過し、アマテラスという神が、各地を流転するほどに知名度も権威も薄れていたと見るのが普通でしょう。
饒速日命(ニギハヤヒ)を祀る神社は関西に多い
ニギハヤヒ(と言っても消されていますが)を祀る神社は関西に多く、九州、中国地方には殆どありません。
神社の分布によって、ニギハヤヒが関西を制覇したことを表しているといえます。
- 歳神社:大分県大分市田尻
- 伊勢天照御祖神社:福岡県久留米市大石町
- 天照神社:福岡県宮若市
- 馬見神社:福岡県嘉麻市馬見
- 伊多神社:鹿児島県いちき串木野市上名
- 金刀比羅宮:香川県仲多度郡琴平町
- 美和神社:岡山県瀬戸内市長船町東須恵
- 木嶋坐天照御魂神社:京都市右京区太秦森ケ東町
- 新屋坐天照御魂神社:大阪府茨木市西河原
- 鏡作坐天照御魂神社:奈良県磯城郡田原本町八尾
- 大神神社:奈良県桜井市三輪
- 石上神宮:奈良県天理市布留町
- 大和神社:奈良県天理市新泉町星山
- 石切劔箭神社:大阪府東大阪市東石切町
- 辛国神社:大阪府藤井寺市藤井寺
- 高屋神社:大阪府羽曳野市古市
- 丹比神社:大阪府堺市美原区多治井
- 磐船大神社:大阪府南河内郡河南町平石
- 美具久留御魂神社:大阪府富田林市宮町
- 阿理莫神社:大阪府貝塚市久保
- 水主神社:京都府城陽市水主宮馬場
- 水度神社:京都府城陽市寺田水度坂
- 桑津神社:兵庫県伊丹市西桑津
- 粒坐天照神社:兵庫県たつの市竜野町日山
- 古宮神社:兵庫県龍野市揖西町小神
- 藤白神社:和歌山県海南市藤白
- 高橋神社:和歌山県和歌山市岩橋
- 穂積神社:三重県四日市市広永町
- 佐美長神社:三重県志摩市磯部町恵利原
- 真清田神社:愛知県一宮市真清田
- 三輪神社:愛知県名古屋市中区大須
- 美和神社:群馬県桐生市宮本町
- 美和神社:山梨県笛吹市御坂町二之宮
- 天王宮大歳神社:静岡県浜松市東区天王町
- 三輪神社:石川県河北郡津幡町字北中条
- 三輪神社:岐阜県揖斐郡揖斐川町