日本人の祖先をDNAで探る
日本人の祖先、人間の起源を探る技術は、今まで化石人骨を中心に発展してはいたのですが
遺伝学の急速な進歩がそれをフルスロット全開で加速させたともいえます。
化石人骨だけでは偶然性が高いのは否めませんし、分子生物学は人間の思い込みをあっさり
否定してくれますから。
ただし、分子生物学も発展途上の学問なので、定説が覆されることはあるでしょう。
ヒトの遺伝信号であるDNAを用いて解析
1953年、ジェームズ・ワトソン、フランシス・クリック、ロザリンド・フランクリン
モーリス・ウィルキンス等により、ゲノムがDNAの二重らせんに書き込まれていることが
明らかにされました。
DNAとは、デオキシリボースとリン酸、塩基から構成される核酸です。
塩基の構成単位、ACTG、A:アデニン、C:シトシン、T:チミン、G:グアニンです。
遺伝子は、ACTGという文字の連なりでできた鎖の小さな1区画で、普通は数千ほどの
文字からなりタンパク質を組み立てるための暗号(コード)として用いらます。
梯子をひねった形なのがDNAで、核の中の染色体の中に折りたたまれて入っています。
DNAは要するに、人間の体を作る設計図と言えます。
ゲノム解析
ゲノム解析技術の発展の恩恵を受けたのが、医学では、ゲノム創薬とか、ゲノムで
その人の体質などを調べて治療したり、病気の予防に役立てたりしていますね。
DNAの配列に沿って化学反応が進行すると、ACGTそれぞれについて異なる色の光が
放射されるので、それを検出してコンピュータに取り込めば、配列をスキャンできます。
遺伝子はヒトゲノムの中で占めるている部分は、わずか1~2%に過ぎずないそうです。
大部分はジャンク領域、いわゆるガラクタなんだとか。
DNA配列は基本的に同じですが、時には人によって違いもみられます。
これはゲノムをコピーする際のランダムなエラーによるもので、変異と呼ばれるエラーが
過去のどこかの時点で起こったことを示します。
こうした変異は遺伝子でも「ジャンク」でもおよそ1000文字に1個程度の率で存在します。
約30億対の文字がある中で、親族関係にない人のゲノム間の違いは、300万個前後。
変異は時間の経過と共に一定の割合で蓄積していくので、どの様な区画についてであっても
2つのゲノム間の違いが大きければ大きいほど、それらの区間が共通祖先の体内にあった時点
から時代を経ていることになります。
人類史にゲノムを応用して成果を挙げた最初はミトコンドリアDNAの解析
人類の歴史研究にゲノムを応用して成果を挙げた最初の例は、ミトコンドリアDNAの解析でした。
ミトコンドリアDNAというのは、母から娘、孫娘へと、母系に受け継がれていきます。
1987年に、数百文字からなる配列を解読しました。これらの文字配列中で、変異による違いが
生じている部位をもとに人々をグループ分けすることによって、母系の系統樹を作成しました。
すると、系統樹の一番古い枝に入るのは、アフリカのサハラ以南の系統の人たちだけでした。
ミトコンドリア・イブと名づけられました。
ミトコンドリア・イブ:現生人類の最も近い共通女系祖先
ミトコンドリア・イブは、分析の結果、最大で20万年前に存在すると推定されました。
とうとう人類の祖先にたどり着いたのか!と思うかもしれませんが
ミトコンドリア・イブは人類の祖先ではありません。
単に、女系が絶えることのなかった幸運な人物という意味しかありません。
同じように男性の祖先をたどるとどうなるかというと。
「人類共通の男系祖先」であるY染色体アダムは、20~30万年前の一人だと推定されました。
Y染色体アダムという名前です。ミトコンドリア・イブに比べて、地味ですね。
この男性と女性2つの系統より、現生人類の祖先がアフリカに住んでいたことを示唆します。
大体、20万年前というのも一致するようです。